いろいろな自己啓発本やスピリチュアル系の本で、「アファメーションは必ず断定形で言いましょう」と書かれています。しかし、本当にそのほうがいいのでしょうか? そしてなぜ?
以下では、論理的な視点と、心理学・神経科学の知見を交えて、断定型アファメーションの利点と注意点を、わかりやすく解説します。
アファメーションとは何か? まず土台を押さえよう
「アファメーション(affirmation)」とは、自分に対して「私はこうだ」「私はこうなる」と言葉で宣言することです。英語では “I am …” や “I will …” といった形で使われます。
心理学の研究では、アファメーション(自己肯定の宣言)がストレス軽減や否定的反応の抑制、自己像の補強につながる可能性が指摘されています。たとえば、自己肯定の宣言を行うと、ネガティブな情報から受けるダメージが和らぐ、という効果が観察されたことがあります。
また、メタアナリシス(多くの研究を統合して分析したもの)によれば、教育現場におけるアファメーション介入は、効果の大きさとしては「小さい」ものの、心理的なウェルビーイング(幸福感や前向きさ)や学業成績の改善に対して一定の効果がある、という結果が得られています。
ただし、「アファメーション=魔法の言葉」という単純化した見方は危険です。人によっては、肯定的な言葉が逆効果になるケースも報告されています。特に自己評価がとても低い人だと、宣言と現実のギャップを感じて落ち込むことがあります。
従って、アファメーションを使うなら、自分にとって自然で、信じられる範囲で、継続可能な形 を選ぶことが大切です。
なぜ断定形(「~する」「~である」型)が推奨されるのか?
「~したい」「~欲しい」とつい言ってしまう
→ それだと潜在意識が「あいまいな状態」を受け取ってしまう
という観点は、スピリチュアル・心理的直感として理解できます。では、心理学的・論理的にはどう説明できるでしょうか。
◎ 言葉が思考・行動に影響を与える
言葉や思考は、私たちの行動や感情に直接影響します。たとえば口に出す言葉が「私はまだ準備できていない」だとすると、無意識で「準備できていない自分」を強めてしまう可能性があります。それが潜在意識に投げかけられると、脳もそれを受け取ってしまいやすいという考え方です。
この観点で言えば、**「~したい」や「あってほしい」**という不確定・希望的な言葉は、「達成できないかもしれない自分」の可能性も含んでしまいます。逆に 「~する」「~ある」 と断定して言うと、目標と現実とのギャップを潜在意識が受け取りにくくなる、という理屈です。
◎ 行動の“確定化”効果
「~する」「~ある」と断定することで、自分に対して「選択の余地がない」ようなプレッシャーがかかります。「やってみる」では余地を残してしまうけれど、「やる」と言ってしまえば“やるしかない”方向に思考が向きやすくなる、という見方です。
この考え方は、いわゆる「意思決定のシグナル」を強め、「行動を後押しする」作用を持つ可能性があります。
◎ 心理の“防衛反応”を和らげる
先ほど述べたように、自己や価値観が脅かされそうな状況で、人は防衛的になります。しかし、アファメーション(自己肯定の思考)をあらかじめ行うと、“自分の価値がある”という意識が先に立ち、脅威を受け流しやすくなるという理論があります(自己肯定理論:self-affirmation theory)
断定形で強く言うほど、この「自己肯定の種」が先に植えられやすくなる、という見方ができるでしょう。
◎ 認知的リソースの向上
ある研究では、アファメーションを行うと、ワーキングメモリ(作業記憶) や 抑制機能(雑念を抑える力)など、認知機能が改善したという結果が出ています。
これが意味するのは、思考がクリアになって判断力が高まり、目標達成や変化への推進力が増す可能性、ということです。
具体例:願望を断定型に変える
元の表現 |
断定形で言い換えた例 |
「◯◯が欲しい」 |
「私は◯◯を手に入れる」 |
「~したい」 |
「私は~する」 |
「やってみる」 |
「私はやる」 |
たとえば、「副業で月10万円欲しい」ではなく、「副業で月10万円を得る」。「文章を書く才能を身につけたい」ではなく、「私は文章を書く才能を磨く」。こういう断定型にします。
ただし、断定型でも「無理矢理な断言」は逆効果になりうるので、“自分が信じられる範囲での断定” にすることがポイントです。
注意すべき点・補足:断定型アファメーションの落とし穴
断定型で言えばいい、というのは万能ではありません。次の点には注意してください。
- 信じられない断定は逆効果になることがある
特に自己評価が低い状態で、現実とのギャップが大きすぎる断言をすると、「そんなはずない」と心が反発し、かえって自己否定感が強まることがあります。
たとえば、「年収1億を得る」など、あまりにも現実離れした数値をまず宣言すると、無意識が拒否してしまうかもしれません。 - 継続が大事。効果は時間とともに薄れることも
アファメーションの効果は、長期間使うと飽きや慣れで薄れるという研究もあります。
だからこそ、断言する表現を定期的に見直したり、感謝や現実の小さな成功と併せて使うのが良いでしょう。 - 行動とセットで使うこと
言葉だけでは限界があります。断定型アファメーションは、行動の“引き金”として使うのが効果的です。目標に近づくためのステップを一緒に持つことが大事です。 - 自己批判や否定語を混ぜない
たとえば「失敗しないようにする」では「失敗しない」という否定語が混ざってしまいます。断定型でも、可能な限り肯定語(~できる、~する)で構成するのが望ましいです。