「好きなことを仕事にしよう」
自己啓発の世界では、よく聞く言葉です。
好きなことでお金を稼げたら、毎日が楽しくなる。
嫌な仕事を我慢しなくていい。
たしかに、そう聞くと理想的に思えます。
でも実際には、好きなことを仕事にしたことで、
「前ほど好きじゃなくなった」
「趣味だった頃のほうが楽しかった」
と感じる人もいます。
なぜ、そんなことが起きるのでしょうか。
「やりたい」が「やらなければ」に変わる
好きなことでも、仕事になれば責任が生まれます。
締め切りがあります。
お客さんの希望があります。
売上も考えなければなりません。
たとえば、絵を描くことが大好きな人がいたとします。
趣味なら、
「今日は描きたいから描こう」
「今日は疲れたから休もう」
と自由に決められます。
ところが仕事になると、
「金曜日までに3枚納品してください」
「もう少し明るい雰囲気にしてください」
「この部分を修正してください」
と言われることもあります。
すると、最初は楽しかった絵が、少しずつ「やるべき作業」に変わっていくことがあります。
これは、絵だけではありません。
料理でも、音楽でも、写真でも、文章でも同じです。

好きなことには「自由」が含まれている
哲学者ハンナ・アーレントは、人間の営みを「労働」「仕事」「活動」という形で考えました。
細かい意味は少し難しいのですが、私たちの生活には、
生活のために行うこと、
何かを作り出すために行うこと、
そして、自分の意思で人や社会と関わること、
それぞれ違った意味があると考えたのです。
ここから考えると、好きなことには「自由」がとても大切だと分かります。
好きな時にやる。
好きなだけやる。
誰にも評価されなくていい。
失敗しても、お金を失わない。
この自由があるからこそ、純粋に楽しめるものもあります。

好きなことを全部お金に変えなくていい
今はSNSなどを見ていると、
「趣味を収入に変えよう」
「好きなことを商品にしよう」
という言葉をよく見かけます。
もちろん、それが楽しくて続けられる人もいます。
好きなことで誰かに喜んでもらい、お金までいただける。
そんな働き方は素晴らしいものです。
でも、すべての「好き」をお金に変える必要はありません。
散歩が好きなら、散歩のままでいい。
読書が好きなら、感想を発信しなくてもいい。
写真が好きなら、売らなくてもいい。
好きなことの中には、
役に立たなくてもいいもの
お金にならなくてもいいもの
があっていいのです。

仕事は「好き」だけで選ばなくてもいい
仕事を選ぶ基準は、「大好きかどうか」だけではありません。
そこそこ得意。
人に喜ばれる。
無理なく続けられる。
生活を安定させられる。
人間関係のストレスが少ない。
こうした条件も、とても大切です。
「大好きではないけれど、嫌いでもない仕事」で安定して収入を得る。
そして、空いた時間に心から好きなことを楽しむ。
そんな生き方も十分に幸せです。
むしろ、そのほうが大切な趣味を長く楽しめる人もいます。
大切な「好き」を守る選択もある
好きなことを仕事にする。
それも一つの生き方です。
でも、好きなことを仕事にしない。
それも同じくらい立派な生き方です。
大切なのは、
「好きなら仕事にするべき」
という言葉に縛られないことです。
あなたの中にある大切な楽しみまで、すべて成果や売上に変える必要はありません。
誰にも評価されなくても、
誰にも見せなくても、
お金にならなくても、
心が満たされるなら、それだけで十分なものもあります。
大切な「好き」を守ることも、立派な人生の選択です。