つらいとき、人はすぐに「自分が弱いからだ」と思いがちです。
でも本当に大切なのは、まず自分を責めることではなく、「この環境や仕組みに無理がないか」を見ることです。
心や体の痛みは、あなたを困らせる敵ではありません。むしろ「このまま進むと危ないよ」と教えてくれる、命のサインです。
だから、苦しさを感じたときは、気合いで押し切るより、立ち止まって見直すことのほうが大事です。
世の中には、「我慢できる人がえらい」「弱音を言うのは甘え」という空気がまだ残っています。
けれど、その空気に合わせすぎると、心の警報まで消してしまいます。守るべきなのは、まわりのノリではなく、あなたの命と人生です。

痛みは、あなたを守るためにある
「『深刻な事故が相次いでいるにもかかわらず、なぜか一向に廃止される気配のない小学校の組体操に関する指示書を先日読ませてもらったのですが、デカデカと「痛いのはみんな同じ、弱音をはかない」などとトンデモないことが書いてある このようなことを平気で言う人は、なぜ生物が「痛み」という感覚を進化の過程で持つに至ったのかということを今一度考えてみてはいかがでしょうか。』」(『ニュータイプの時代』山口周著)
この言葉が強く心に残るのは、学校の話で終わらないからです。
大人の社会にも、よく似た空気があります。仕事がつらくても「みんな我慢している」と言われる。しんどいのに「ここで弱音を吐いたら負け」と思ってしまう。そんなふうにして、心や体が出しているサインを無視してしまうのです。
でも、痛みは根性を試すためのものではありません。国際疼痛学会は、痛みを「実際の組織損傷、または損傷が起こりうる状態に関係する不快な感覚と情動の体験」と定義しています。つまり痛みは、危険や異常と深く結びついた“警報”なのです。
だから本当の強さとは、黙って耐えることではなく、「痛い」「怖い」「無理かもしれない」と言えることです。自分を守る力こそ、静かで本物の強さなのだと思います。

無理を美化すると、成長の前に事故が起きる
この考えを裏づける材料は、実際の社会の中にもあります。
文部科学省は、組体操について「確実に安全な状態で実施できるかどうかをしっかり確認し、できないと判断する場合には実施を見合わせること」と示しています。さらに、危険度の高い技は慎重に選ぶよう求めています。
また、日本スポーツ振興センターの資料では、組体操による医療費等の支給件数が平成23~26年度に年間8,000件を上回っていたことが示されています。別の事例集でも、2013~2015年度の3年間で25,224件に及んだとされています。気合いだけでは守れない領域が、たしかにあるのです。
ここから見えてくるのは、とてもシンプルなことです。
痛みを無視する文化は、成長を生む前に事故を生みやすい、ということです。根性が必要な場面はあるでしょう。でも、安全を削る根性は、勇気ではなく危険物です。根性は筋トレに使えても、命まで削る必要はありません。ちょっとブラック企業みたいな根性論には、こちらから退勤したいですね。

あなたの痛みは、未来を守る味方になる
今日いちばん伝えたいのは、「痛み=ダメな証拠」ではないということです。
痛みは、「方向を少し変えよう」「この場所は危ないかもしれない」と教えてくれるヒントです。
だから、もし今しんどいなら、次のことを思い出してみてください。
まず、苦しい気持ちを言葉にすること。メモでも、信頼できる人への相談でも大丈夫です。
次に、小さく止まること。休む、離れる、やり方を変える。撤退も立派な作戦です。
そして、自分を責める前に、環境や仕組みのほうを疑うことです。
あなたが守るべきなのは、世間の空気ではありません。
あなたの心、あなたの体、そしてこれからの人生です。
痛みは、あなたを止める敵ではなく、ちゃんと耳をすませば、未来へ導く味方になります。
だからどうか、苦しさを感じたときほど、自分を責めずに、自分を守るほうを選んでください。そこから人生は、静かに立て直せます。